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街には・・・
オレたちが子供の頃、
街には正義が溢れていた。
だから、
大人になったら正義の味方になるんだと、
みんなが本気で思ってた。
あれから・・・
疲れを知らない少年・・・だった
昭和31年生まれの僕たちにとって、
高校時代放課後のクラブ活動と言えば「しごき」が
常識だった。
そんなクラブの中でもしごきの強烈さが校外にまで響き渡り、
これまた強烈な勧誘の網を持ち、校内のあらゆるところで
待ち受けていたのがレスリング、柔道の格闘技系。
僕は日に日に迫る地獄の包囲網を回避するため、サッカー部に入った。
強烈さの順で数えればサッカー部がそんなに上位になることは
ないだろう・・・
甘かった。どのクラブもそれなりの「地獄」が在ったことは、
入部して日の浅い僕らにしっかり知らされ
ることになる。
それはあの日、
へとへとになるまでみっちり練習したその後、
理由は忘れてしまったが、
先輩が皆怒っていた。
もしかすると理由など、どうでも良かったかも知れないし、
本当は怒っていなかったのかも知れない。
でも、先輩は怒っていた。
一通りのお説教を浴びせられた後、陽も落ちて
真っ暗になったグランドの片隅。
僕達1年生全員、ゴールライン上横一列に並ばされた。
「いいか!全力出せよ!!いくぞ・・・Go!!!」
僕らは地獄に向かって一斉にダッシュ。
「何、気抜いてんだよ。全力出せって言ってんだろ!」
ゴールライン~ゴールライン約100メートルの間を
全力で走り抜け、
皆が皆、どうしようもなく壊れてしまった呼吸を整えようと
足掻いていた。
「ほら、しっかり立てよ!気をつけ!
全力出し切っていないヤツが居たからもう一回だ。
回れ右!いくぞ・・・Go!!!」
いや、全力って全部の力だから、全部出したら
もう残っていないわけで・・・
頭の中に浮かんだ言い訳など、口から出る前に消し飛んだ。
いや、言い訳どころか、
心臓が口から飛び出しそうなくらい激しく暴れている。
やっと地獄のスタートラインに戻り着こうとした時、
めまいがして倒れそうになった。
僕らは呼吸と呼ぶにはあまりに変形してしまった、
もと呼吸を整えようと必死になっている。
「ほら、しっかり立て!ナメテんのかコラっ~!
本気出せって言ってんだろう。
もう一回!!」
初めのうちはこの地獄の苦しみが
誰かのせいで産まれるモノと考えると
やけに腹が立った。
また、別の方向へ走って、
その場から逃げ出してしまおうかとも思った。
そんな思いを胸にぶら下げたまま
全力で走る。走る。
でも、本当に『苦しい』という状態が次々に更新されて行く。
それは同時に、今まで自分が考えていた限界の壁を超える
初めての作業とも言えるかも知れない。
「もう一回!」僕らは、まるで呪縛のようなその言葉から
すでに逃れられなくなっていた。
信じられるわけがない数回目のもう一回を聞いた時、
良し解ったオレを殺したいのだろう?
『こうなったら死んでやる!』僕は胸の中で、
変な決意を叫びながら
全力で走る。まだ走る。
周りの仲間達は1人・・・3人・・・5人・・・
ことごとくグランドに倒れて
闇と同化しているようだ。
なかなか死ねない僕は、まるで雑巾を絞るように
体の中から力を絞り出し、
地獄の中を走る力に替えている。
もう、ダメかも知れない。。。
「ヨシ止めっ!」
天国から舞おりた先輩の一声を聞いた時、
僕は全身の力が抜け、崩れかけた。
そして遠のく意識の中でまだ生きている自分を見つけた・・・
あの強烈な苦しみが、
疲れを知らない少年を作り上げ、
疲れを知らないオヤジのもとになったことは間違いない。
疲れを知らないオヤジ・・・だった
平成8年頃、僕はまだ自営の商店主。
バブル経済崩壊。
その衝撃波をもろに受けて店はつぶれてしまった。
その後、しばらく職人の世界で働いていた。ところが、
ある事件に巻き込まれてその世界にも居られなくなってしまう。
42歳の厄年を過ぎて、僕はサラリーマンになった。
不器用なくせに頑張ることが好き?とにかくよく働いたと思う。
職人の世界でも言われた一言。
「もっと不真面目になったら?」
いや、僕のバブル時代。それはきっと、
不真面目という泡の温めのお風呂。
そこに浸かっていることがとても心地よかったし、
幸か不幸か仲間が仲間を呼んで、
悪いことにも感じられなかった。
破滅という名のカメと競争して負けた僕は、
偽りの成功ウサギ、イソップ童話通りの結末。
だから
厄年を過ぎた後の僕は、償いの人生。
家族に、お世話になった人々に、
僕を信じてくれた人に・・・
償えるわけなど無いけれどせめて、
クソ真面目に生きよう。
それが今の僕に課せられた生き方だと思うから。
そして僕は働いて働いて働きまくった。
疲れを知らない少年はいつしか、
疲れを知らないオヤジになっていたようだ。
大きな会社で働く人は皆同じ顔をしているらしい。
静かで大きな湖に浮かぶ水鳥のように、
変化のない平凡な日々を、とつとつと群れて生きている。
もちろん、それが悪いなどと思ってないし言う気もない。
ただ僕には、元来体育会系で染みこんだモノがある
「頑張り」という、ある意味とてもうるさいヤツが加速する。
頑張る僕は、静かで大きな湖に投げ入れた岩。
しかも沈まない不思議な岩。
いつまでもいつまでも水面に波を立てている。
ふと気がつけば、
他人がやっていた仕事も僕の手中にあったりして、
どうやら僕の頑張りは平凡な日々という湖に、
変化に富んだ競争を持ち込んでしまったらしい。
良いことではないかも知れない。
でも、僕の必死は
行き着く先が解らない変化そのものだからしようが無かった。
のかな?
見えないところからの罵声や怒号を浴びながらも遂に、
会社の未来を担う重要なプロジェクトが、
僕を名指しで呼び寄せた。
君はまるで海兵隊だ
まるで「アメリカ海兵隊のよう」とは
会社の利益と名誉を守る誇り高きプロの戦士であり、
最強の少数精鋭部隊を讃える言葉らしい。
驚くことに、僕のことを指して言っている。
僕はうれしかった。
すべてが初めてという難問プロジェクトに真正面から立ち向かい。
切り込み隊長の任務を遂行した。
疲れないオヤジはがむしゃらに働き続ける。
そう、僕を信じてくれた人のために・・・
僕の頑張りは実際、長年続いた会社の赤字の穴埋めに寄与することができたし、
若者育成という未来へ向けての大事な作業も完璧にできたと自負する。
そして、1年350日、毎月の残業150時間という、
労働基準局には絶対話すことができない勤務状況が、
約3年続くことになる。
海兵隊隊長・・・何それ?誰のこと?
切り込み隊長は、「初めて」だからこそ必要な人。
仕事が順調ならばそんな奴はうるさい。要らない。
しかも海兵隊隊長はいつの頃からか、
会社より何より現場の「人間」の健康・安全面を
最重要最優先課題として動いている。
それは時に、会社への裏切り行為と写ることも仕方がない。
人の何倍も働いた僕には、人よりもうんと早く
退職の日が訪れた。
結末はそれか。
僕の退職の日。
大きな会社は
波一つ無い広く大きな湖に戻った。
変化をすべて飲み込んでしまう深さを、
その静かさが表現している。
海兵隊隊長はその存在さえ不明確でどうでも良い、
ただの伝説になっていた。
高年フリーター誕生
フリーターとは、フリーなアルバイターらしいけれど、
自由などと言う言葉にだまされないで欲しい。
その言葉はともすれば気ままな、
根無し草的人生を指さす響きを持つ。
指さされた人はかつて自営業の社長であったり、
そろばん●段の猛者なのにキーボードにたたき出された
もと会計事務所の人。
病で倒れ退社を余儀なくされたばりばりの元正社員だったりする。
いずれにせよ今、その実態はいつでも首を切れるという、
会社側の自由に怯える、
ちょっと寂しい生き物だ。
人材派遣会社「グッド●ィル。」
何とも響きのいいその会社に、僕も人材として加わった。
人材と言っても、一山いくらのうちのワンピース。
派遣先の会社で僕という人格を否定されたかのような
屈辱的な扱いに唇をかみしめたこともある。
仕事の内容がきつくて苦しんだこともある。
口には出さなかったけれど、
年のせい?いつの間にか「疲れ」を知る人になっていた。
でも、袖擦り合うたくさんの出会いの中で、
実に多くの「人間」を学べたことがうれしい。
支店長を始め、スタッフの面々とも仲良く楽しくできた。
僕がその会社で働けたことは素適な思い出と言える。
それはまた、母から貰った珠玉の言の葉を
我が人生に焼き込む、かけがえのない経験になったと思う。
母の温かい励ましの言葉が歌になった。
それがこれだ
♪「負けないツボミ」
音声プレーヤー↓
♪歌詞1番
- 悲しむことは 良いことなのです
- 泪の数だけ優しくなる
- 自分を信じて あげて
- 苦しむことは ステキなことです
- あなたは必ず 知らぬ間に
- 人のために強く 成れるから
- 覚悟を決めぬままに
- 迎えた冬を どう溶かす
- 春一番が 怒ったように
- 大地を揺らし 吹き荒れる
- 泣いてもいいよ すべてを忘れて
- 桜は 桜 梅は梅 あなたらしく
- 負けないツボミ
- 風を抱きしめながら
- 夢を ふくらませる
「グッド●ィル」が消える日
僕にとってはとてもステキな会社だった。
でも、おごれるものひさしからず・・・かな。
もちろん法に触れるような悪さをしていたなら、
その繁栄自体が悪になる。悪を許してはいけない。
それよりも、出る釘は打たれるこの国で、
調子に乗りすぎたのかも知れない。
パチンコの釘を打つ小型のものから、
堅い大地に杭を打つ特大のハンマーまで集結して、
すごく大げさに「グッド●ィル」の頭を
連打している風景ばかりがニュースになった。
「グッド●ィル」その存続が絶望視された時。
僕が所属していた店の支店長は、
僕が派遣されている会社に出向いて、
僕がその会社の社員に成れるよう働いてくれた。
「グッド●ィル」が消える日を、
僕は大手流通会社の社員として迎えることになったのです。
支店長を始め、スタッフの皆さん。
貴方たちに本当にお世話になったこと、僕は忘れない。
ありがとう。
どうか元気でいて下さい。
「つ・か・れ」を知るオヤジになった・・・
長すぎる不況という大義名分は、オヤジ達の生き方を一変させた。
不況などという時代の流れは、きっと一過性のもの。
バブル経済は二度と無いにしても、そのうち日本は元気を取り戻す。
「そしてオレ達の安定した生活も・・・」
オヤジ達が油断してる間にその流れは、
とてつもない鉄砲水となってオヤジ達を飲み込んだ。
給料を奪われるだけならまだ良い方で次々に仕事を奪われて行く。
残った仕事は、命を奪いかねない激流になっている。
どんなに大変でも仕事があれば幸せだ。
「会社を生かす」という美辞麗句が日本中を飛び交う中。
オヤジ達の命の値段は最安値を更新した。
オヤジ達は過労死などしていられない。
「いいか!全力出せよ!!いくぞ・・・Go!!!」
オヤジ達は、疲れを知らない少年だった自分を思い出しながら、
不況の闇の中を、
今日も全力で走り抜ける。。。
「奴隷じゃないぞ!」口から出かかった言葉をムリムリ飲み込む。
オヤジ達は現代の生き方に選択の余地がないからだ。
そしてまた意地でも口に出せない一言を、この頃体が言っている。
「つ・か・れ・た」


